7月15日(火)


昨日は祝日だったので,今日がこの旅行初めての平日になる.コート・ダジュール地方の各地には,鷲の巣村 une village en nid d'aigle といって,かつてサラセン人の襲撃を避けるため丘の上に民家が集まってできた村が点在している.今日の目的地であるファリコン Falicon もその一つ.この村について日本語で書かれた情報源は探し当たらなかったものの,眺めがよさそうだし,ニースから近いというのも都合がよく,出発前から心待ちにしていた訪問なのだった.

ゆっくりして,9時半に宿を出る.市内のバスに乗って長距離バスステーションまで.25系統ファリコン行きは本数が少なく,10時30分発のに乗車する.やがてバスは山道に入り,リミエ・レ・バサン Rimiez les Bassins あたりからは人家もまばらになる.エール・サンミシェル Aire St-Michel から少し下って登って,バスステーションから約30分でファリコンに到着.

写真 27

村の中心部には小さな広場があって,ベンチから見渡す景観はなかなかのもの.小さな噴水がアクセントになっていて,その周りに村役場,教会,小さな食料品店があり,さらにその周りの斜面には家々が集まり,間に小学校が.3〜4階建てくらいの家々が,狭い石畳の通路をはさんで額を寄せ合うようにして並んでいる.それでいて少しも雑然としていないのは,どの家も小さなスペースに草花を植え,プランターを置いたり壁につたを這わせたりと,きれいに装うことに余念がないからだろう.建物の壁は,フォンタンの教会や駅のような赤茶色の塗装もあるけれど,トロンプルイユ trompe-l'œil といって,あたかも装飾を造り付けてあるかのように見える精巧な絵を外壁に描いているのがあって,これもこの地方独特のものらしい(写真 27).観光客の姿がほとんど見られず,とても落ち着ける美しい村である.

写真 29
写真 30
写真 28

12時になり,レストラン Au Thé de la Reine に入って食事とする.なお,村にもう1軒あるレストランは本日定休日であった.谷を隔てた向かいの斜面の家々と稜線を望むことのできる絶好の立地のテラスに案内され,コース料理と白のグラスワインを頼む.

1皿目は赤ピーマンのオーブン焼きを中心に,緑の野菜,トマト,固ゆで卵,黒オリーブを合わせてオリーブオイルでまとめた一品で,とろけるほどに火を通して肉厚の赤ピーマンが実に甘く豊かな味わいだ(写真 28).2皿目はヒメジ rouget.鮮やかな赤が映える香り高い魚で,3尾分を贅沢に使い,ていねいに3枚におろし,衣を付けて揚げてある(写真 29).付け合わせは,トマトとズッキーニの肉詰めと,アーティチョークとひき肉の炒め物.ワインとの相性もよく,すっかり満腹になってしまった.

ここまでの料理は最初の注文のときにメニューを見ながら選択したのだけれど,デザートは料理を平らげた後に口頭で注文することになった.聞くと,りんごのタルト,自家製ティラミス,イル・フロッタント île flottante,アイスクリームの何とかがあるというので,イル・フロッタントというのは何かとたずねると,œufs à la neige と crème anglaise と caramel だという.要は,卵と砂糖のデザートだ.日本ではあまり口にする機会がないので,それを頼むことにした(写真 30).和菓子で泡雪というのがあるけれど,それよりずっと甘くて,人によってはしつこいと感じるかもしれないこってりとした甘さが卵の風味に合っているデザートだった.

南仏名物であるヒメジの新鮮なのを食べられたし,景色もよく,忘れがたい昼食となった.

写真 31

食後はラベンダーの香る日陰で持ってきた読み物を読んで過ごし,15時20分発のバスでニースへ戻る.途中で降りて,市街地に立地するシミエ修道院 Monastère de Cimiez をさくっと見学.いわゆる観光地ではないながら,さすが大伽藍である.ゴシック様式というのだろうか,内部の装飾も実に細かく,由緒ありそうなすすけた宗教画などがさりげなく展示されていたり.すぐ近くの円形闘技場跡(写真 31)でローマ属領時代をしのんで,バス停に戻る.しばらく待って,来たバスに乗って宿へ戻る.ジャン・メドサン通りにはモノプリ Monoprix という,フランスの代表的なスーパーがあって,今日は平日なので営業していることに気づき,入ってみる.魚売り場 poissonerie に行ってみると,7月12日から9月1日までの間は定例により休業,と張り紙がしてあった.さすがフランス,大胆に休むものだ.もとより魚は買う予定でないものの,トマトなどを購入する.

宿でしばらく休んで,夕食は軽めにしたいと思って,4度目の flunch.やはり韓国人の若者の群れが複数,まごまごしていた.「昨日も韓国の人たち来てたんだけど」と水を向けてみると,「有名なんですよ」と.おおかた韓国のガイドブックに載っているのか何かなのだろう.ならば,店内の標示をフランス語だけでなく韓国語でも表記していれば親切なのに,と思う.

昼食がボリュームがあったので,何皿も取りはしないこととし,「鶏 四分の一羽 ロースト」なるあけすけな名前の料理を頼んで,ほうれん草,じゃがいも,お米などの付け合わせを添える.