7月13日(日)


写真 5

ゆっくり寝て,大陸式でセルフサービスの朝食をとる.味はまあまあ.朝食の内容を説明する書き物に,boisson d'orange 「オレンジ飲料」を並べているとあったので,飲み物は jus d'orange 「オレンジジュース」ではないんだな,と.電話(写真 5)をかけようと télécarte (50度数)を買う.

写真 6
写真 7
写真 8

11時30分に宿を出ると,近くの貯蓄金庫 caisse d'épargne ビル(写真 6)はまぶしいばかり.やしなんか植えてあって南国風の周辺を見渡しつつ空港(写真 7)に戻り,バスでニース国鉄駅へ向かう.いくつもの公共海水浴場 plage publique を車窓に眺めつつ,ニース市街へと入る.

25分ほどで駅(写真 8.正面に掲げられている SNCF というのは Société nationale de chemins de fer français の略で,フランス国鉄のこと)に着き,すぐ近くの Hotel Mercure Nice Alexandra にチェックイン.Mercure というのは,アコーホテルズというヨーロッパに多くのホテルを擁するチェーンの一つのブランドとして位置づけられている模様で,小さいホテルだが部屋はそれなりに豪華.すぐ宿を出て,駅近くのカフェテリア「flunch」で Fillet de Pangas の昼食.pangas というのは白身魚で,薄味で煮てある.

ニース一帯は紺碧海岸 Côte d'Azur と呼ばれるように風光明媚な土地柄で,旧港 Vieux Port からモナコ Monaco 往復,レランス諸島 Iles de Lérins 上陸など,各種のクルーズ croisière ツアーが出ているらしい.その中ではもっとも手軽な,ヴィルフランシュ・シュル・メール Villefranche-sur-Mer を初めニース付近の名所を1時間で回り,途中で陸地に上ったりはしないクルーズを電話で予約する.

駅に戻って,日本で予約したマルセイユ行きのきっぷを自動販売機で手に入れようとしたものの,カードを受け付けてくれなかったので,とりあえず後にして港へと向かうことにしたところ,駅から歩いて1分弱のところで20代前半とおぼしきすりの男女2人組に出くわしてしまった.あたりはごく普通の街並みで,とりたてて落書きが多いとか怪しい風体の人が歩いているというわけでもない場所なのに,白昼堂々とウェストポーチに手を伸ばすとは,なるほど,南仏はパリなどに比べて治安が悪い地方なのだと再認識させられる.

写真 10
写真 11
写真 9

気を取り直して,ニース随一の目抜き通りであるジャン・メドサン大通り Avenue Jean Médecin へ.ジャン・メドサンというのは,20世紀前半から中盤にかけてニース市長を長年務めた人らしく,私がニース市民ならこの通りの名前には複雑な思いを抱くかもしれない.そのまま南へ,アンジュ湾 Baie des Anges の方へ歩き続ける.マセナ広場 Place Masséna (写真 9.マセナはニース生まれで,ナポレオンに仕えた軍人)を横切り,旧市街に入り,裁判所 Palais de Justice (写真 10.「正義の宮殿」ではない……)をわき目に見つつ進む.旧市街と旧港の間には小さな丘があるので,いったん海岸に出て丘を迂回することにする(写真 11).

写真 13
写真 15
写真 12
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ニース市街中心部はいたってコンパクトなのでほどなく旧港(写真 12)に到着する.コルシカ行きの大型船が3隻停泊しているのを横目に見つつ,遊覧船の出る小さな桟橋で手続きをして船に乗り込む.出航は15時で,100人乗りほどの小型の船は観光客たちでほぼ満員だった.フランス語,英語,イタリア語によるアナウンスに案内されながら,船はニース岬 Cap de Nice を左手にして進み,景勝地であるフェラ岬 Cap Ferrat の西側へ(写真 13).急勾配の岩山にヨーロッパの人が好みそうな豪邸がやや密集して並んでいる.映画俳優や富豪の別荘だという.場所によっては木々はまばらで,岩と緑と海と空のコントラストを楽しむという趣向.日本に比べて木が少ないのは,降水量の関係なのだろうか.風がやや強いためかそれほど暑くもなく,快適な遊覧を続ける.岬と岬の間の奥まったところにヴィルフランシュ・シュル・メールの町がある.美しく眺めのよさそうな家々が岩山の斜面に並んでいるのを右手に見つつ(写真 14)ニース岬へと戻り,そのままいったん西に行き過ぎてから,海岸沿いのプロムナード・デザングレ通り Promenade des Angrais に面して建ち並ぶ建築を愛でつつ港へと戻り,下船.SNCM Ferryterranée なんていう掛け言葉のような文字の躍るフェリー(写真 15),観光客相手に果物の砂糖がけなどを売る店などを眺めて港を後にする.

写真 16

旧港からはバスで宿に戻ろうかと思ったものの,駅方面行きのバスの出るバス停が見当たらず,歩いて戻ることにする.ゆっくり時間をかけて40分ほどの道のりを,特徴的な町並みを眺めつつ歩く.今度は繁華街をはずして歩いてみると,休日だからか人通りは少ない.日本の都市とは違って,道のぎりぎりまで5階建てくらいのコンクリートの壁がせり出していて,そのうち1階は商店や飲食店になっていて,日本で言うところの下駄履きマンションであるというところは以前訪れたストックホルムやロンドンと変わらないものの,上層階のバルコニーの装飾などが独特だ.ガリバルディ広場 Place Garibaldi (イタリアが統一国家として成立する過程で活躍したというガリバルディがニース出身者とは,意外な感があるけれど,当時ニースはサルジニア Sardaigne 王国領だったらしく,納得する)を抜け,アクロポリス Acropolis と名づけられた会議場の前の広場を過ぎ,商工会議所 Chambre de commerce et d'industrie (写真 16)の前を通って宿へ戻る.

シャワーを浴びてから,夕食のため外に出る.日曜なので飲食店は休みのところが多く,やはり昼と同じセルフ店,flunch へ.豚ひき肉の網脂包み焼きプロバンス風 Crépinette de porc provançale に,赤ワイン 25 cl とエクレアを付ける.まだ20時,夕暮れまでには当分間があるけれど,帰りは用心して,昼にすりに遭った通りの反対側の歩道を通ったところ,今度は金が欲しいと紳士的に迫る20代後半とおぼしき男2人組に出くわす.紳士的に断ったものの,いい若い者がこんなことをしているのは実に情けない話だ.