みしっく今日のひとこと - 2010年12月


■2010/12/23(木)  違法職質国賠訴訟

22日付東京新聞朝刊27面によれば,ナイフ付き万能工具を所持していたとして軽犯罪法違反容疑で摘発された男性が,警視庁の職務質問で過大な精神的苦痛を受けたとして21日,都と警視庁に慰謝料100万円の国家賠償と指紋など個人情報の消去,工具の返還を求める訴訟を東京地裁に提起したとのこと.

東京新聞は7月に,職質問題の背景に警察の職質ノルマ(摘発数目標)があることを取り上げている.同紙24面によれば,原告は取材に応じ,「悪いことをした意識はない.悪夢のようだった.無知に付け込んで犯罪者に仕立て上げるなんて,悪質なキャッチセールスか」「明らかに異常〔な取調べ〕.あの怖さを毎日思い出す.同じ目に遭った人は多く,見過ごせない問題だ」と声を震わせたという.スイスに本社を置く工具メーカーは,「こんな職質は日本だけだ」と驚いたといい,日本限定でナイフのない種類も売り出しているという.記事はメーカー名を明記していないが,Victorinoxあたりではないか.

原告による訴訟経過を報告するウェブサイトは見当たらないが,今後の報道などにより経過を注目していきたい.

一方,結果の重大性からすると,2006年6月に警察官が職質後逃亡した中国人に対し正当防衛と称して発砲し死に至らしめた事件の方にも注目していく必要がある.

この事件について,遺族が栃木県に対し国家賠償を求めて提訴したが,第一審の宇都宮地裁は請求棄却.原告控訴により現在東京高裁に係属しているという(参考: NPJ訟廷日誌).また警察官に対する特別公務員暴行陵虐致死罪容疑での告訴は不起訴となったものの,付審判請求が認容され,現在宇都宮地裁に刑事事件が係属している模様(この当時は検察審査会による強制起訴制度がなかった).

被告栃木県の主張によれば,被害者は武器を持っていたことから発砲の相当性があったとし,それが一審判決でも認められたようだけれど,銃に手をかけている者とか,至近距離で包丁を振りかざしているような者に対してはともかく,細い竹の棒と石灯籠の一部(?)を持っているだけのような場合に発砲するというのは,刑事上も違法性が阻却されないのみならず,民事上も損害賠償が認められてしかるべきではないかと思った.

コメント

■2010/12/19(日)  社会問題シリーズ 第2回

濱口桂一郎『新しい労働社会―雇用システムの再構築へ』(岩波新書,2009年)を読んだ.

この国に住んでいる人の大半は自営業や会社役員ではなく労働の対価で生活をしているのだから,労働社会のきしみは国民全体の課題.著者はEUの労働法を日本と比較することを主な研究課題としている模様.米国は年次有給休暇が法律で義務づけられていないなどあらゆる面で先進国の中では特異な国なので,米国と日本の比較にはあまり意味がなく,EUと日本を比較するというのは妥当.

日本では労働時間が1週間当たり40時間,1日当たり8時間(もちろん労働協約などによりこれより有利な条件を定めることは禁止されていない.以下同じ)と法定されており,災害等による臨時の必要があるときに行政官庁の許可を受けて労働時間を延長することができるなどの限定的な例外が定められている中,実際には労使協定による適用除外制度があるためこの規制は骨抜きになっているという状況に対し,EUでは労働者の健康と安全の保護を目的として,週当たり労働時間の上限は48時間と規定されている(イギリスを除く)ほか,1日当たり最低連続11時間の休息期間を義務づけているというのは,重要な指摘だと思う.

また,日本では整理解雇に比べて普通解雇の方がずっと規制が緩やかだとして疑問を呈している(EUでは労使間の話し合いにより整理解雇が認められるのに対し,使用者による恣意的な普通解雇が規制されているという)のも,本当にそうなのかどうかはさておき面白いと思った.

その他の現在の日本型雇用システムの抱える課題についてもなかなか興味深い指摘がなされているが,本稿では省略することとし,関心のある方は実際にこの本を読んでいただければと思う.

著者は諸課題に対する処方箋として,企業別組合(現状ではその大部分は非正社員を排除している)をベースに,(当該企業で働く)すべての労働者が加入する代表組織を構築することが唯一の可能性であると述べる.

労働条件の決定や業績悪化時の対処において,労働者対使用者,正社員対非正社員といった当事者間の利害調整が求められるのはつとに指摘されるところで,その手段としては集団的合意形成が欠かせない(労働者と使用者が1対1で賃金を初めとする労働条件を決めるのは無理である)というのは,それを産業民主主義と呼ぶかどうかは別として,おそらく誰もが肯認するところであり,憲法28条の趣旨でもある.

ただ,思うに,既存の企業別組合をベースに非正社員も含めたすべての労働者が加入する代表組織を構築するというのは,その組織が民主的に運営され,実質的に正社員と非正社員の間の利害を調整する役割を果たしていけるのであれば,望ましいことであり既存組合の責務であるとは思うけれど,不十分な部分も大きい.

日本の労働者の大半(常用労働者については約3分の2)は中小企業で働いているところ,たとえば従業員規模50人なり100人といった企業では組合が結成されていないところがほとんどであり,企業内に組合を作って安定的に運営していくのは規模的に困難が大きいほか,こうした中小企業では雇用の流動性・不安定性も高いので,企業内での合意形成力は大企業に比べて限定的であると考える.そこで,少なくとも中小企業においては,著者の提案のような方策ではなく,企業の枠を超えて,地域別・産業別の労働者代表組織を作っていくことが不可欠ではないかと思う.

この組織はいまのコミュニティユニオンのような個別労使紛争の駆け込み寺ではなくて,当該地域・産業において過半数の組織率を目指す必要がある.そして,その組織力をベースとした合意形成が,労使双方に納得のいく労働条件の設定,労働環境の改善をもたらし,不況・業績悪化時の対処(賃金引下げや一時帰休などの痛みを伴う対処が不可避となることもあるはず)も労使間でぎりぎりの協議を尽くして行うことによって,不本意さを少しでも低減することになるのではないか,ひいては経営の安定や当該地域・産業の活性化にもつながるのではないかと思う.

コメント

■2010/12/18(土)  ドキュメントひきこもり

池上正樹『ドキュメントひきこもり 「長期化」と「高年齢化」の実態』(宝島社新書,2010年)を読んだ.

100万人に上ると推計されるひきこもりの問題は,医療を中心として早急な対処が必要な社会問題なのだと改めて認識.いくつかおぼえがきを.

ひきこもりの人たちは,不登校の延長の人たち(就労経験がない.若年者が多い)と,就労経験があるが社会から離脱して復帰できなくなった人たち(高年齢者まで幅広く分布.著者は「社会人ひきこもり」と名づける)に大別される,と.ちなみにここでいう高年齢者というのは,35歳以上を指す.いままで行政の支援が主に35歳未満の人に向けられていたためである模様.

ひきこもりを程度で分類すると,自室から出られないような最重度の人から,軽度の人まで多様だけれど,ときどきは外出できるという人が割合としては最も多いという.

ひきこもりと疾患の関連性については,「入口疾患」と「出口疾患」に分けて考えるとよい由.すなわち,ひきこもりの原因となった疾患(発達障害であることが多い)と,ひきこもり初期に精神疾患などがあったかどうか定かではないが,長い間ひきこもった結果として生じる疾患(パーソナリティのゆがみ,身体病の合併など).ただ,ひきこもりで相談に訪れた人の95%に精神疾患がみられたとの調査結果もあるという.

ホームレスの人たちにもひきこもりと同様の状態に該当する人たちが増えているといい,著者はこれを「路上にひきこもる人々」と名づけている.ひきこもりと直結するわけではないが,ホームレスの6割にうつ病などの精神疾患がみられるという調査結果もあるという.住まいがないと公的医療保険制度からも疎外されてしまうし,生活保護の医療扶助を受けるのも困難で,治療を受けないまま放置されてしまっているのではないかと思う.

なお,統合失調症の初期にひきこもりの状態が現れる場合もあることから,見逃すことがないように(統合失調症は早期に発見して薬物療法などの治療をすることが必要)との注意があり,これはもっともだと思った.逆に,ひきこもりの対応を誤って統合失調症を発症させてしまった事例もある(ひきこもることによって発症を免れていたと考えられる)というのが興味深いところ.

私は友人・知人が多い方ではないのに,その中にひきこもりの人や社会参加ができずにいる人が相当いるというのは不思議なことだし,何とかならないものだろうかと思う.その一方で,人間関係や就労に困難が多いこの社会では,不幸にしてひきこもりに至ってしまうという仕組みも理解はできるし,「働きたくても体が動かない」という状態もよくわかる.私自身,少しでも自室に閉じこもって心身を休めたいと思うことも稀ではないけれど,それは無理な話だ.

コメント

■2010/12/14(火)  ウィッシュリストを書いてみた.

最近の政治情勢にかんがみて,私の視野の届く範囲でのウィッシュリストを書いてみた.

歴代自民党政権では実現できなかったことばかり.仮に民主党政権でも実現できないとなれば,有権者としてはどうすべきかということになる.

いろいろな意見があるところだし,全部いっぺんにできるはずはないので,優先順位をつけて取り組む必要があると思うのだけれど.

コメント

■2010/12/13(月)  「叱」と「𠮟」

常用漢字の改定が11月30日に告示された.料理関係では,「串」「煎」「膳」「酎」「丼」「鍋」「匂」「箸」「蜜」「麺」「餅」などが追加された.「鶏」に「とり」の訓は追加されていない.「味噌」や「醤油」または「醬油」の「噌」「醤」「醬」は追加されていないので,日常生活上,固有名詞の場合は別として,これらはかな書きするかどうか考える必要がある.今回の告示は6月7日の文化審議会答申を受けたもの.

今回一部で注目を集めたのが,「しかる」「しっせき」などに使う漢字が追加されたこと.答申・告示によれば口へんに七,つまり「𠮟」で書き表すことになっているが,技術的事情によりこの文字を取り扱うことが難しい(端的にいうと,表示したり,入力された値を正しく保存したりすることが難しい)「叱」(口へんに匕)なら大丈夫なのだけれど.

また「麺」が麦へんになったのも違和感が否めない.2000年の国語審議会答申である表外漢字字体表では「麵」(麥へん)になっていたのに….

なお地名でよく用いられる「葛」は下の部分に「人」が入っている形が採用された.奈良県葛城市(「かつらぎ」と読む.下の部分が匕になっている)は今後肩身が狭くなりそうだ.

先週も新幹線こまち号だった.在来線を想起させる車体幅と,黄色いシートカバーにもすっかりなじんでしまった.早朝のやまびこ号などにはこまち号車両が連結されていて,普通車は自由席なので気楽に座れる.上野駅で降りるはずなのにうっかり寝過ごして,東京駅で特急料金差額の200円を精算する羽目になったというのは内緒.

東北新幹線は東海道新幹線と違って殺伐としていないのがよい.えきねっとなどでシートマップから座席が選べるのもよい.

コメント