前記事に引き続いて,今年度税制改正のお話.
受益者連続型信託については,受益権の移転があったときに,前の受益者から遺贈等により財産を取得したとみなして相続税等を課税することとなった(平19法6による改正後の相続税法9条の2第3項).
受益者が交代するたびに相続税等が課税されたのではたまらないから,この制度は信託法の一つの目玉として創設されたとはいえ,実質的には使えないものになってしまったということだろうか.受益の期間などに制限を加えることにより評価額を引き下げようとしても,相続税等の課税上は制限がないものとみなされる(同9条の3)ため,目的を達することができない.特に,前の受益者の死亡以外の理由により受益権が移転するような仕組みは,相続税に比べて税率が高い贈与税が課税されてしまうため,ほとんど使い物にならないといえそう.
使い方としていま思いつくのは,相続税の基礎控除額に収まる程度の比較的少額の財産について受益者連続型信託を設定することにより後継ぎ遺贈を実現し,それ以外の遺産については通常の遺贈などにより取得する者を決めるという形ぐらい.
事件や事故の慰謝料や,被害者死亡時の損害賠償金などについて,被害者の遺族などが生活費にあててしまうのではなくて,同種の事故等の発生を防止する活動や同種の事故で重い後遺障害を残した他の被害者の支援などに役立てたいという場合は少なからずあるのではないだろうか.
さだまさしの「償い」ではないけれど,加害者等も資力がないとすれば,和解などで長期の分割払いを定める例もありそうだ.
こうした場合,被害者側としてはもはや債権の取立てなどに長期にわたって煩わされたくないと考え,当該債権を他人に信託するということも,新しい信託法では制度上可能なつくりになっている.
その場合,受益者の定めがない信託ならば,いわゆる目的信託という分類に該当する.目的信託は,新信託法の審議中にライブドア事件などいろいろあったおかげで(?),信託会社など政令で定める一定の者しか引き受けられない旨規定された(新信託法附則第3項)ため,使いにくい制度となってしまった.
この規制を免れるために,信託の時に受益者が特定されてはいないものの受益者の定め自体は存在するような信託を設定するとしても,税制が邪魔をしてしまうようだ.
(平19法6による改正後の)法人税法4条の7第9号や,エプソンの解説記事などを読む限り,当該信託を法人とみなし,当該法人に対する贈与があったものとみなして受贈益について法人税が課税される模様.平19法4を読む限り,法人住民税・事業税もしっかり課税されそうな感じ.なお,万一信託が利益を生むと,これも法人税課税されてしまう(実際には,加害者等から賠償金を受領するたびに,信託目的に従って分配してしまい,運用益等が発生することはないようにするのだろうかと).
これは,みなし譲渡課税(同じく改正後の所得税法6条の3第7号.上記設例の場合,損害賠償債権について譲渡益が発生することはないだろうから,問題とならなさそうだけれど)と同様に,悪用を防ぐための防衛的な措置であって,まじめな目的があるならいままで通り主務官庁の許可を得て公益信託を設立しなさいということかもしれないけれど,税負担は相当重い.せっかく目的信託などの制度ができたところなのに,残念である.
当該債権を拠出して非営利法人を設立する場合(実際には一般財団法人を選ぶことになるか)は税制上どう扱われるのだろうか.今年末に制度が固まると予想されるので,それに向けて政府税調などでの議論をウォッチしていきたいところだ.
怪しいサイトを作ってクレジットカード番号やパスワードなどを不正に取得しようとする輩が跳梁跋扈している今日このごろ.
被害を防止するため,独立行政法人 産業技術総合研究所の,安全なWebサイト利用の鉄則が,簡にして要を得ており参考になる.
このページは先月公表されたもの.信頼できる運営者による,既知のドメイン名を持つ,SSL で暗号化されたページ上では,パスワードや個人情報を入力しても安全だというのが一点.ドメイン名を知らない場合は,サーバ証明書に運営者名が記載されていることが確認できればよいとしている.なお SSL を使用していてもオレオレ証明書が使用されている場合は安全でないとしている.
確かに,運営者の信頼性,既知のドメイン名,適切な証明書による SSL 接続という3つの要件が揃えば,偽のサイトに個人情報を取得される被害は発生しない.でも,このように定式化された知識はあまり普及していないようだから,同ページの「どうやってWebサイトを安全に利用するか、その手順のことはあまり広く知られていないようです。技術者達の間では暗黙の了解となっていることですが、市販のパソコンの取扱説明書には書かれていませんし、学校の教科書にも書かれていません。最近では行政機関や企業からフィッシングに注意を呼びかける文書が発表されることがありますが、あまり正しく解説されていないのが現状です。」という指摘は耳が痛い.
交通事故を防止するための交通安全教育や健康な心身を保つための健康教育は学校を通じて十分に行われているし,法律的なものごとに的確に対処できる能力を育てる法教育や,金融情報を理解する力を育てる金融教育は,職能団体や日銀系の組織を通じて提供が進みつつあるようだけれど,情報セキュリティについて必要な知識の体系を一般向けに提供するというのは,まったく不十分.こういった活動は,技術者の大事な役割の一つなのだと思う.
…そう思うのだけれど,Wikipedia の「フィッシング」の項目の物足りなさを見るにつけても,まだまだこうした知識の普及状況には相当改善の余地があることを痛感してしまうのだった.
米国でサブプライムローンの不良債権化が経済・政治問題として大きく取り上げられたのは,ここ1,2か月.
サブプライムローンというのは,信用度の低い消費者を対象とした住宅ローンなどの貸付のこと.銀行などの一般金融機関から融資が受けられない消費者を相手に,貸し倒れリスクを取って貸し付ける貸金業者があり,もちろんリスクが高い分,利率は高いらしいのだけれど,その貸付金の焦げ付きが増加していて,経営破たんに追い込まれた業者も発生したことでニュースになったのだった.
日本では,住宅市場の冷え込みを一因として米国の景気が減速した場合の世界経済への影響を懸念する声がよく聞かれたのだけれど,米国は日本以上の持ち家社会.銀行などから融資を断られた消費者がサブプライムローンを組むことで,人生で初めて住宅を取得することが可能になるというケースもあり,人種問題なども考え合わせると,信用度の低い消費者向けローンにも独自の存在意義があるといえるのだった(なお,いわゆるペイデー・ローンのような超高金利・短期貸付は,健全なものとはいえず,本来規制すべきと思う).
日本の場合はどうか,と考えてみると,サブプライムに特化した会社はあまりないように思うのだけれど,GEコンシューマー・ファイナンスの提供する住宅ローン,GE Money が類似の商品と位置づけられそう.
同社サイトによれば,自営業や勤続3年未満の人の利用が多いのだという.一般の金融機関の融資基準が,同社の顧客像から裏写しとなって浮かび上がってくる.ただ,団体信用生命保険への加入が必須なようだから,健康状態を理由に融資を断られる人は同社のローンもやはり利用できなさそう.そういった人は,民間金融機関独自のローンではなくて,住宅金融支援機構(旧: 住宅金融公庫)と金融機関が提携して提供するフラット35が利用できるよう,信用度を高める努力をしていくことになりそうだ.
なお,最近しばしば広告で見かける,住宅ローンの範囲外の不動産担保ローン(バブル期の日本では「住活ローン」などと呼んでいたことを思い出す)は,担保があるのにかなりの高金利を取っているのが不思議でしょうがない.私の限定的な知識をもとに考えると,こうした高金利のローンを利用するのは合理性がないように思える.何か別の存在理由があるのだろうか.