みしっく今日のひとこと - 2012年5月


■2012/ 5/ 7(月)  株式買取価格決定申立て却下決定に対する抗告を棄却した判例,など

最二小決平成24年3月28日 平成23年(許)7号.

裁判要旨を最高裁ホームページから引用すると,以下の通り.
1 振替株式について会社法116条1項に基づく株式買取請求を受けた株式会社が,同法117条2項に基づく価格の決定の申立てに係る事件の審理において,同請求をした者が株主であることを争った場合には,その時点で既に当該株式について振替機関の取扱いが廃止されていたときであっても,その審理終結までの間に社債等振替法154条3項所定の通知がされることを要する。
2 会社法116条1項に基づく株式買取請求をした株主が同請求に係る株式を失った場合は,当該株主は同法117条2項に基づく価格の決定の申立ての適格を欠くに至り,同申立ては不適法になる。

原審は高松高裁とのこと.要旨2において「株式買取請求をした株主が同請求に係る株式を失った」と言っているのは,株式を全部取得条項付種類株式とする旨の定款変更の効果および同株式の取得日が到来したため,株主は同株式を失ったということで,株式買取請求をしたからといって定款変更の効果が生じないことはないから,会社法117条2項の申立ては不適法となるという趣旨.

少数株主を追い出す(「キャッシュアウトマージャー」と呼ばれる)のにこのような全部取得条項付種類株式を利用したスキームを使うのは常例となっている(会社法上はこれ以外のスキームも考えうるのだけれど,税制上の事情によりこれに収束する模様).本事件では当該株式取得により少数株主の有する株式の対価として別の種類の株式の端数を交付する方式をとったようだが(これだと当該端数の処理につき234条1項・2項により裁判所の許可が必要),直接に当該株式取得の対価として金銭を交付する方式もとられる.その場合,対価として株式の公正な価格をはるかに下回る金額が決定されることがままある(株式の公正な価格を決めるのも難しい)という問題が生じる.

このような場合の救済方法として,会社法172条1項の申立てはできるが,会社法117条2項の申立てはできないというのが判例の趣旨.

172条1項の申立てができるといっても,株主総会に先立って当該取得に反対する旨を会社に通知し,かつ,株主総会において反対したこと,株主総会の日から20日以内に裁判所に申立てをすること,振替株式(上場株式はすべてこれ)の場合は,これに先立って振替法の規定に従い個別株主通知をすること(個別株主通知の有効期間は同法施行令により4週間),と,要件が厳しい.

少数株主といっても機関投資家のようなところなら遺漏なく手続を追行できるのだろうけれど,その他大勢は安く追い出されてしまうという問題点がある.

上場廃止日を手がかりに調べたところ,ナカイ株式会社という,大証2部単独上場の会社であった模様.

会社法807条2項の株式買取価格決定申立てについても,注目すべき判例が出ている.最二小決平成24年2月29日 平成23年(許)21号(テクモ事件).株式移転が公表された後に市場株価が大幅に下落したといった事情がある場合でも,両会社の株主総会で承認されるなどの一定の要件を満たす場合には株式移転比率は公正なものとみるのが相当,との決定の内容には,これも「安く追い出された」との不満が出そうだ(テクモの事例には詳しくないけれど,往々にして業績が悪化して株価が下落したタイミングでTOBとかMBOが行われるケースが多いという事情もある).

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