◎ほーむ 小笠原父島旅行記
日本で「いちばん遠」く,「いちばん特別な」島,小笠原諸島. この島々についていくらか述べてから,小笠原父島への旅行記をつづることにする.
小笠原とは
小笠原諸島は東京の南,約 1,000 km に位置する. 気候は亜熱帯.沖縄と対照的に,小笠原諸島は大陸から遠いので, 気温がそれほど変化しない.「東洋のガラパゴス」という別名を持つ. 実際,固有の生物や生態系がそこにはある.たとえば,タコノキ (Pandanus boninensis) という名前のやし,メグロ (Apalopteron familiaris) という名前の鳥,マルハチ (Cyathea mertensiana) という名前のシダだ.興味深いことに, ぶな科の植物(ブナ,クルミ,ナラなど)はまったくない(毒へびもいない:-)). 空港がないので,交通は船に頼っている.このため観光客は少数にとどまり, 島はそれほど開発されないでいる.
この島は,沿革もまた独特である.小笠原貞頼が 1593 年に発見したと伝えられる.1830 年以降,欧米人・ハワイ人が父島に定住するようになった. このころ欧米は活発に捕鯨を行っていて,この島は捕鯨基地としても利用された. 明治時代,多くの日本人が移民して住み始めた.第2次世界大戦後は, 米国によって占領され,欧米系住民だけが住むことを許された.1968 年,日本がこの島を取り戻し,日系旧島民が平和に帰島することができた.
島の産業は観光,公共事業,漁業(それほど主要でない)である. 観光に関連して,ホエールウォッチングとドルフィンスイムが最近始められた. ドルフィンスウィムとは,自然のままのイルカといっしょに泳ぐのを楽しむこと. イルカは好奇心が強いので,とても楽しいという.
旅行記
2000年8月25日から28日までの間,父島を訪れた. 以下はその旅行記である.
23日,京都を出発.東京行きの新幹線の車内で, 携帯電話と PHS を使って,インターネットに試しに接続してみた. 走行速度が速いので,接続がときどき切断されてしまったものの, 何とか数ページを読むことができた.
東京到着後,東京証券取引所を見学.株式の取引が,全部コンピュータシステム上ではあるけれど, そこで行われていた.私にとってはおもしろかったけれど, 予習なしでは展示物の理解が難しいので,多くの人が東証見学に魅力を感じるかどうかは不明. その後,そばを食べた.関西地方ではそばはあまり一般的でない. 東京観光の後,渋谷のホテルで夜を過ごした.
24日朝.小笠原諸島への唯一の船,おがさわら丸は, 東京港の竹芝さん橋に停泊していた.10時に乗船. 船室は観光客でいっぱいだった.この船はとても大きい(総トン数は 6,679 トン).フィンスタビライザーのおかげで,揺れは無視できるぐらいだった. このフィンスタビライザー,船長によれば「本船でいちばんお金がかかっている装置」だそうだ. 本を読んだり,海を眺めたりして,時間を過ごした.船中泊.
25日.11時30分,父島二見港に到着.ユースホステル (YH) に予約をしてあった.さん橋には「ヘルパー」(季節的に YH で働く若者たちをこう呼ぶ)さんたちが出迎えに来ていた.他の宿泊者とともに,YH までヘルパーさんたちについていった.
YH に到着してすぐ,森に出かけた.森には魅力的なものがたくさん. タコノキはほんとにタコに似ていたし,たくさんの種類のやしがあるのには驚いた. その日まではやしのなかまを見ても,全部「あ,やしだ」と, 特に区別していなかったのだけれど.移入種の木もまたちょくちょく見つかった.ギンネム (Leucaena leucocephala),モクマオウ (Casuarina equisetifolia),ガジュマル (Ficus retusa) がそれだ.
林床に大きな貝殻が転がっている. 脇を通りすぎようとすると,きゅっきゅっ,という鳴き声がした. 振り向くと,貝殻がくるくると転がっていっていた.よく見ると, 「貝殻」は本当はムラサキオカヤドカリ (Coenobita purpureus) だということがわかった.ヤドカリの殻は名前のとおり,紫色をしている. 目が二つ,触角が4本,足が6本.貝殻は移入種の陸産貝類(つまり, かたつむり)であるアフリカマイマイ (Achatina fulica) のもので,長さ 10 cm に達するものだった.
森を過ぎて,山のてっぺんに着いた.標高が高くはないけれど, 景色がとてもよい.海! 山! そして,島々! 眺めにとっても満たされた感じ.
夜,YH の宿泊者たちといっしょにヤコウタケ(Mycena chlorophos, グリーンペペとも)を見物するために外出. このきのこは発光するきのことして知られる.緑,青,白を混ぜ合わせたような色で, ツキヨタケ (Lampteromyces japonicus) よりずっと強く,力強く光っていた.
26日.YH で知り合った人といっしょに自転車で島を一周した. 自転車はレンタル.すばらしい景色を楽しんだ. 広い海を見渡して,この海はハワイに届いているんだなあと,しみじみ. ある山の頂上で昼食.昼食中に,ふと海に目をやると, 数キロ先に灰色の雨雲が見えて,その真下の海面は色がひときわ濃くなっていて, 海と雲との間に白っぽいカーテンみたいなのがかかっていた.すごい. 「雨の降っている現場」の眺めに感動.
27日.浜辺でシュノーケリング(シュノーケル,フィン, ゴーグルを使って泳ぐこと)を試してみた.岩が多い浜だったけれど, さんごが育ち,熱帯魚がたくさん泳いでいるのは岩があるからこそだ. さんごも魚も色とりどりで,見ていてとても楽しかった. 観光客が少ないのもよかった.
夜は,パーティー.島ずし(しょうゆにあらかじめ漬けておいた魚で作るすし), 宿泊者が釣ってきた魚,などなど.余興もまたいい雰囲気を出していた. 飲んだりお話ししたり.
28日.月曜日.見るべき場所をいくつか訪れ,おみやげを買って,乗船. おみやげとしては,グアバめんといって,グアバ (Psidium guavaja) の葉を粉にして混ぜ込んだパスタとか, スターフルーツ(ゴレンシ,Averrhoa carambola,マレーシア起源の樹木)とかを買った. 乗船後まもなくおがさわら丸は出港.14時.YH の宿泊者やヘルパーさんたち含め,たくさんの人たちに見送られた.
船内では,機関室と操舵室を見学した.旅客を機関室に立ち入らせるのは珍しい. 機関室はとても暑かった(気温は50度もあった). 大きなディーゼルエンジンがたくさんあったし,その他さまざまな機械があった, 操舵室からはすごいいい眺め.気さくな船長は機器を説明したり, 操船方法(特に東京港の港内での)についてコメントしたりしてくれた.
29日.本を読んだり,伊豆諸島を眺めたりして時を過ごした.15時30分, 船は,出発したのと同じさん橋に,6日ぶりに到着.新幹線に乗って帰洛. 旅は日焼けした肌といっぱいの思い出とともに終わりを迎えた.
あとがき
小笠原諸島は交通機関に乏しい.しかし道路はへたな普通の村よりもリッチだ. この島は東京都に属するということを思い出そう. 小笠原を訪れる前に,原付の免許を取得しておくことをすすめたい. それほど暑くはないが,日差しが強いので,日焼け止めは必需品だ.
おがさわら丸は約6日間で往復する.1航海の滞在で, 小笠原諸島で3泊することができるが,これは島を楽しむのに十分とはいえない. 状況が許すかぎり,2航海の間滞在することをすすめる.2航海なら, 小笠原諸島で9泊することができる.もう一つの YH は母島にあって,ここに泊まるのもよさそうだ.